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時効と債権管理の話

売掛金(営業債権)などの回収と時効の関係を解説した記事
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債権が消滅する原因の一つとして消滅時効という制度があります。債権の消滅時効制度は債権者が一定期間その権利を行使しない場合に時効が成立し、債務者が時効を主張することにより債権が消滅するものです。

1.趣旨

 そもそもなぜ時効という制度があるのでしょうか。理由はいろいろありますが主に以下の2点に集約されます。

(1)権利の上に眠る者を保護しない

 「Aさんが数十年前に貸付期間1年でBさんにお金を貸したまま忘れてしまいました。ある日屋敷を掃除していたところ数十年前の借用書が現れました。そこでAさんはBさんにずっとほっておいた貸金を返してくれと請求しました。でもBさんも数十年前にお金を借りたことを忘れてしまっておりAさんに言われて初めて思い出しました。でも今更そんな昔の借金を返したくない。借りたお金は返すのが筋だけど、ずっとほっておいたAさんも落ち度があるんじゃないか。」ということです。

(2)証拠の保存義務を軽減する

「Aさんが数十年前に貸付期間1年でBさんにお金を貸しました。Bさんは貸付期間終了時に借入金を返済し領収書をもらいました。しかしAさんは最近になって返済してもらったことを忘れてしまい、また貸付金の返済をBさんに迫ったところ、Bさんもそんな昔の借入金を返済したかはっきり覚えていなくて領収書を探したけど無くしてしまったのか出てこない。でも領収書がないためにはるか昔の借入金を返済しなければならないのは納得できない。」ということです。

2.時効制度のあらまし

(1)時効期間

時効によって債務者が時効を主張できるようになるまでの期間を時効期間といいます。債権の時効期間の原則は10年です(民167)。ただし商行為により生じた債権の時効期間は5年です(商522)。株式会社や有限会社の場合は、その取引はほとんど商行為になりますので時効期間は原則として5年となります。しかしこれはあくまでも原則です。民法や商法では特別に時効期間が決められている債権がたくさんあります。例えば売買代金債権(売掛金)の時効期間は2年とされています(民173、商522)。また他の法律でも特別に時効期間が定められている債権がたくさんあります。特別に時効期間が決められていない債権の時効期間が10年ないし5年になるということになりますが例外がたくさんあるわけです。この例外の時効期間は原則より短縮されているものが多いのですが、これを「短期消滅時効」と言ったりします。

(2)時効の起算点

時効期間が開始する時期を時効の起算点といいます。民法では時効の起算点は権利行使ができる時とされています(民166)。消滅時効は権利の上に眠る人を保護しないという制度ですからこう定めているわけです。したがってたとえば返済期限が定められている貸付金はその返済期限が到来した時が時効の起算点となります。

(3)時効の完成

時効期間が経過すると債務者が時効を主張できる状態になります。これを時効の完成といいます。

(4)時効の援用

時効が完成してもそれだけでは債権は消滅しません。債務者が債権者に対し時効の完成を主張して始めて債権が消滅します。この債務者が時効の完成を主張することを「時効の援用」といいます(民145)。時効の援用権の行使は債務者の自由です。

3.債権者の対応

では債権者は消滅時効にどのように対応すればよいでしょうか。しっかりと債権管理をして回収努力を怠らないことを前提として、状況に応じ以下のことを押さえておく必要があると思います。

(1)時効完成前

とにかく時効を完成させないようにしなければなりません。時効制度は権利の上に眠る者を保護しないという制度ですから権利の上に眠らなければよいわけです。この時効の完成を阻止する制度として、「時効の中断」があります。

(a)時効の中断

時効の中断が認められると、中断事由が終了した時を時効の起算点として再度、時効期間を計算し直します(民157)。つまり進行してきた時効期間が止まり、ふりだしに戻るわけです。時効を中断させる行為として、例えば以下のものがあります(民147)。

(イ)請求

 債権者が債務者に対し、「借入金を返してくれ」と要求したとします。これを「催告」といいます。ただし単に催告をしただけでは完全に請求をしたことになりません。民法では催告をしてから6ヶ月以内に裁判上の請求などをしなければ時効中断の効力はないと定めています(民153)。裁判上の請求とは、上の例でいうと「借入金を返せ」という訴状を裁判所に提出することです。

(ロ)承認

債務者が債権者に対し「確かに債務が存在します」と認めることです。具体的には債務者が債権者に対し、債務残高確認書を差し入れたり、元金を一部弁済したり、利息を支払ったり、支払を猶予してくれと頼んだりすることです。

(b)手順

請求と承認を比べると、承認は債務者に行動してもらえばよいのに対し請求は裁判上の手続が必要になるなど煩雑です。したがってまずは債務者に債務の承認をしてもらうように働きかけていくことを考え、債務の承認が得られない場合には裁判上の請求等を検討することが良いのではないかと思います。

(2)時効完成後

債権者がその債権についてうっかり時効中断の手続をとらないで時効が完成してしまった場合、債権者はどうやって債権回収をしたらよいでしょうか。以下のことを押さえておきたいところです。

(a)時効利益の放棄

 債務者が債権者に対し「時効の利益を主張しません」と意思表示することです。しかし債務者が意思表示をするわけですから当然、債務者は時効が完成した事を知っているはずです。時効の完成を知った債務者は時効利益の放棄をすることはあまりないでしょう。では時効完成前に時効利益の放棄ができるかというと、時効利益の放棄は時効完成前にはすることができません(民146)。したがってお金を貸すときに契約書に「債務者は時効利益を主張しない」と記載しても無効となります。

(b)時効援用権の喪失

時効完成後に債務者が先ほど述べました「承認」にあたる行為をした場合、債務者は時効の援用ができなくなります。したがって例えば債務者は時効が完成した後であっても借入金を一部でも弁済した場合は時効を援用できなくなります。また時効が完成したことを債務者が知らなくても時効を援用できなくなります(最高裁判例 昭和41.4.20)。せっかく時効が完成したのに債務の承認をしてしまったことにより債務が残ってしまうわけです。債権者は債務者にこの「債務の承認」をしてもらうように働きかけることが大事です。

(3)時効援用後

(a)相殺の検討

 時効を援用され消滅した債権でも、時効完成前に同じ債務者に債務を負っていた場合、債権者はその債権を債務と相殺することができます(民508)。つまり相殺によって実質的に債権回収を図れるわけです。債権が時効を援用され消滅したのに債務だけ支払わなければならないのは不公平だからです。ただし、相殺禁止特約がある場合や相殺に適さない債権債務の場合は相殺できません。

4.まとめ

(1)債権者の注意点

 催告書(請求書)を送っているだけでは完全に時効は中断しません。さらに裁判上の請求などが必要になります。しかし、相手が催告書(請求書)を見て、慌てて代金の一部でも払ったり、支払を猶予してくれと言ったりすると債務を承認したことになり時効は中断します。
催告は、口頭で行なっても法律上有効ですが、証拠保全の目的からは催告書(請求書)を配達証明付内容証明郵便で郵送するのがよいでしょう。また債務の承認も書面をもって行ってもらったほうがよいでしょう。
時効が完成した債権でも、堂々と代金を請求して構いません。相手が少しでも代金を払ったりすると、もう相手は時効の援用ができなくなります。
では時効を援用され、債権が消滅した場合に保証人に払ってもらうことはできるでしょうか。残念ながらこれはできません。債務が消滅すると保証人の保証債務も消滅します。これを保証債務の消滅における附従性といいます。
さらに時効を援用され、債権が消滅した場合に債務者の不動産に抵当権を設定していた債権者はこの抵当権を実行して債権回収を図ることはできるでしょうか。残念ながらこれもできません。債権が消滅するとその抵当権も消滅します。これを抵当権の消滅における附従性といいます。

(2)債務者の注意点

債務の時効が完成したら堂々と時効を援用して構いません。時効の援用権は法律で認められた債務者の権利です。ただ債権者が継続的な取引先の場合は時効を援用すると以降の取引関係がうまくいかなくなってしまうかもしれません。
逆に、1円でも支払ってしまうともう時効の援用ができなくなってしまうのでご注意下さい。

5.時効と税務処理

債権は時効の援用により消滅します。したがって、時効の援用時に以下の税務処理をします(原則的な考え方であり例外はあります)。

(a)法人の場合

債権者  貸倒損失 100 / 売掛金 100
債務者  買掛金  100 / 雑益  100

(b)個人事業者の事業用債権の場合

債権者  貸倒損失 100 / 売掛金 100
債務者  買掛金  100 / 雑益  100

(c)個人の場合((b)以外の場合)

 債権者  債権の消滅による損失は所得計算上、控除されません。
 債務者  債務の消滅による利益は所得計算上、一時所得となります。

6.税法上の時効

税金にも時効があります。税金の時効の原則的な扱いは以下のとおりです(例外はあります)。

(1)更正、決定の期間制限(課税に係る行政処分の時効)

(a)更正

所得税や法人税などの申告納税方式の税金について、税務署が税務調査をしたところ申告内容が間違っていたときは、税務署長が税額を修正する手続があります。これを「更正」といいます。この税務署長が更正できる期間はその更正の対象となった税金の法定申告期限から3年となります(国通70@)(注1)。ただし、税額を減額する更正は5年になります(国通70A)。

(注1)平成16年税制改正により、法人税については、更生期間が5年に延長されました。したがって、税務調査の対象期間が、現状は過去3年分の場合が多いですが、今後は過去5年分の場合が多くなると考えられます。

(b)決定

 申告納税方式の税金について申告納税義務がある人が申告をしなかったときは、税務署長は税務調査をして税額をその人に通知します。この手続を「決定」と言います。決定できる期間はその決定の対象となった税金の法定申告期限から5年となります(国通70C)。

(c)脱税の場合

 脱税など悪質な行為があったと認められる場合は、上記(a)、(b)の期間は7年に延長されます(国通70D)。

(d)補足

 更正決定の期間制限は正確には「時効」ではなく「除斥期間」だと言われます。除斥期間とは法律が一律に定めた権利の存続期間のことです。除斥期間は時効と違い、債権者が中断することはできず、また期間満了により権利が消滅するので援用や放棄といった手続はありません。

(2)国税徴収権の消滅時効(徴収に係る行政処分の時効)

国が有する国税債権は法定納期限から5年を経過すると消滅します(国通72@)。ただし脱税など悪質な行為があった場合は7年に延長されます(国通73B)。(1)は税額を決める手続(課税手続)ですが、こちらは決まった税額を支払わせる手続(徴収手続)です。この消滅時効は除斥期間ではなく時効期間ですが、民法などの時効と違い援用や放棄をすることはできません(国通72A)。しかし国は時効の中断はすることができます(国通73@)。

 

このレポートは法律や過去の重要な判例に基づき、時効制度などについての一般的かつ原則的な取扱の説明を目的として記述したものです。具体的な事例について検討される場合は、内容により別の取扱が適用される可能性があるため御注意いただきますようお願い致します。

(更新日:平成16年05月18日)

 

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